新しいプロジェクトが始まるたびに、同じ設定を繰り返していないだろうか。クラスの作成、レイヤ名の設定、寸法スタイルの調整、ページサイズの指定——これらはすべて、Vectorworksのテンプレートファイル(.sta)に一度まとめておけば、次回からは一切不要になる。
本記事では、内装設計の実務で使えるVectorworksテンプレートファイルの作り方を、設定すべき項目とその理由とともに解説する。一度整備すれば、プロジェクト開始の無駄な時間を大幅に削減できる。
テンプレートファイル(.sta)とは何か
Vectorworksでは、ファイルを「テンプレート形式(.sta)」で保存することができる。.staファイルは、通常の.vwxファイルと構造は同じだが、「新規書類を作成するときの雛形」として機能する点が異なる。
新規書類作成時に「テンプレートを選択」画面が表示されるが、ここに自作の.staファイルを登録しておくと、毎回その設定を引き継いだ状態でプロジェクトをスタートできる。
テンプレートファイルに保存される情報:
- クラスの一覧と設定(線種・線幅・塗りつぶし・カラー)
- デザインレイヤの一覧と設定(縮尺・スタック順)
- シートレイヤの構成(A2・A3等のページ設定)
- 寸法スタイル(申請図用・プレゼン用など複数登録可)
- テキストスタイル(見出し・注釈・凡例など)
- 保存されたビュー(平面図表示・3D表示など)
- リソースブラウザに格納したシンボル・ハッチング
- プリンタ設定・ページ設定
逆に言えば、これらをゼロから設定するのが「毎回の初期作業」になっているケースが多い。テンプレートはその解決策だ。
テンプレートに設定すべき項目と実務的な理由
1. クラス設定
最も重要な設定項目。クラスは図面の「情報の整理棚」であり、プロジェクトごとに一から作るのは非効率かつ表記ゆれの原因になる。
実務で最低限用意すべきクラス例(内装設計向け):
| クラス名 | 用途 | 線幅の目安 |
|---|---|---|
| 00_基準線 | 通り芯・グリッド | 0.18mm |
| 01_壁-既存 | 既存躯体・構造壁 | 0.35mm |
| 01_壁-新設 | 新設間仕切り | 0.35mm |
| 02_建具 | ドア・窓・建具 | 0.25mm |
| 03_家具 | FF&E・家具 | 0.18mm |
| 04_設備-電気 | コンセント・照明 | 0.13mm |
| 04_設備-給排水 | 衛生器具 | 0.13mm |
| 05_寸法 | 寸法線・引き出し線 | 0.13mm |
| 05_テキスト | 文字・注記 | 0.13mm |
| 06_ハッチング | 仕上ハッチング | 0.09mm |
| 07_参考 | プロット不要の参考情報 | — |
数字の接頭辞(00_, 01_ …)を付けるのは、並び順をコントロールするためだ。Vectorworksはクラス名をアルファベット順に並べるため、数字を先頭に付けることで論理的な順序を維持できる。
2. デザインレイヤの設定
縮尺の設定ミスは作図の致命的なエラーになる。テンプレートでデザインレイヤの縮尺をあらかじめ決めておくことで、縮尺の混乱を防げる。
内装設計の標準的なレイヤ構成:
- 平面図 — 1:50(住宅)または 1:100(大型店舗)
- 展開図 — 1:50
- 天井伏図 — 1:50
- 詳細図 — 1:20 または 1:10
- 3D — 縮尺なし(モデル空間)
レイヤ名にも数字接頭辞と規則を設けておくと、複数のファイルを参照した際の混乱が減る。
3. 寸法スタイルの登録
寸法スタイルは、申請図・プレゼン図・詳細図で異なる設定が必要になることが多い。特に文字サイズ・矢印形状・単位表記は図面の用途によって使い分ける。
最低でも2種類のスタイルを用意:
- 申請図スタイル:文字2.5mm、端部矢印、単位なし(mmは省略)
- プレゼンスタイル:文字3.0mm、端部丸ドット、単位あり(2,400mm表記)
これをテンプレートに登録しておけば、書類作成後すぐに選択して使い始められる。
4. テキストスタイルの登録
フォントと文字サイズをスタイル化しておくことで、図面全体の文字表現を統一できる。後から全文字のフォントを変えたい場合も、スタイルを編集するだけで一括変更できる。
内装設計で使うテキストスタイルの例:
- タイトル:12pt・ゴシック系・太字
- 部屋名:4pt・ゴシック系
- 注記:2.5pt・ゴシック系
- 凡例:2.5pt・ゴシック系・斜体
5. シートレイヤとビューポートの設定
シートレイヤには「図面を印刷・PDFで出力するためのレイアウト」が入る。テンプレートにA2・A3のシートを用意しておくと、ビューポートを配置するだけで印刷設定が完了する。
ポイントは、ビューポートの「縮尺を明示的に設定」しておくこと。テンプレート段階では空のビューポート(もしくはサンプルビューポート)を用意し、縮尺と対象レイヤの設定を固定する。プロジェクト開始後はビューポートの対象範囲を変えるだけでよい。
テンプレートファイルの作り方——実際の手順
手順1:ベースファイルを準備する
まず、通常の.vwxファイルとして設定を行う。既存のプロジェクトファイルから作成する場合は、図形データをすべて削除し、設定情報だけを残した状態にする。
「ファイル」メニュー →「書類設定」でページ設定(用紙サイズ・解像度)を設定しておく。
手順2:クラス・レイヤを整備する
「組織」メニュー →「クラス」「レイヤ」でそれぞれ設定を行う。この段階で数値的な設定(線幅・カラー・縮尺)を確定させる。
よくあるミスは、クラスの線幅を「デフォルト」のまま放置すること。デフォルトは環境によって値が変わるため、必ず数値で明示しておく。
手順3:寸法・テキストスタイルを登録する
「ツール」メニュー →「寸法スタイル」で登録。テキストスタイルは「テキスト」メニュー →「テキストスタイルを管理」から設定できる。
手順4:.sta形式で保存する
「ファイル」→「別名で保存」を選択し、ファイル形式を「Vectorworks テンプレート(.sta)」に変更して保存する。
保存先は Vectorworks のテンプレートフォルダ(通称「ライブラリ」フォルダ)に置くと、新規書類作成ダイアログに自動的に表示される。
一般的なパス(Vectorworks 2025/2026の場合):
(Mac)~/Library/Application Support/Vectorworks/2025/Libraries/Defaults/
(Win)C:\Users\[ユーザー名]\AppData\Roaming\Nemetschek\Vectorworks\2025\Libraries\Defaults\
手順5:新規書類作成で動作確認
「ファイル」→「新規書類」を選択し、作成したテンプレートが一覧に表示されるか確認する。選択して「OK」をクリックし、設定が正しく引き継がれているか各項目を一通りチェックする。
チームで共有する方法
複数人で同じテンプレートを使う場合、.staファイルを共有ドライブ(NAS・Dropbox・Google Drive等)に置いておき、各自の Vectorworks ライブラリフォルダにコピーする運用が基本だ。
ただし、コピーの管理には注意が必要だ。テンプレートを更新した場合、全員が新しいファイルに入れ替えなければならない。更新が多い場合は「テンプレートバージョン管理」のルールを設けておくとよい。
チーム運用での推奨ルール:
- ファイル名にバージョンを付ける(例:
naiso-std-template_v3.sta) - 更新内容をテンプレート内のシートに記録する(変更履歴シート)
- 更新通知をSlack・LINEで周知する運用フローを決める
よくある失敗と対策
失敗1:テンプレートが「重い」
シンボルやリソースを大量に詰め込みすぎると、新規書類作成のたびに重いファイルが生成される。テンプレートには「よく使うもの」だけを入れ、プロジェクト固有のリソースはプロジェクトファイルに追加する運用にする。
失敗2:縮尺の設定ミスに気づかない
デザインレイヤの縮尺をテンプレートで設定しても、新規書類作成後に変更してしまうケースがある。「このレイヤはこの縮尺」というルールをプロジェクト開始時にチームで共有し、変更する場合は全員に周知する運用が必要だ。
失敗3:クラス設定の「なし」クラスが汚染される
Vectorworksには「なし」クラスが必ず存在するが、ここに図形を置く運用は避けるべきだ。テンプレートの段階から「なし」クラスへの作図を禁止するルールを設けておくと、後からの図面整理が大幅に楽になる。
まとめ:テンプレートは「作業標準書」
Vectorworksのテンプレートファイルは、単なる「時短ツール」ではない。それはプロジェクトごとの設定ブレをなくし、図面品質を一定水準に保つための「作業標準書」だ。
一度整備に時間をかければ、以後のすべてのプロジェクトでその恩恵を受け続けられる。特に設計事務所や内装会社で複数案件を並走させている場合、テンプレートの整備は品質管理の基盤になる。
まず自分のプロジェクトで使っているクラス一覧を書き出すところから始めてみてほしい。それがテンプレート作りの最初の一歩だ。
NAISO Lab では、Vectorworksを使った内装設計の実務Tipsを継続的に発信しています。クラス命名規則・寸法スタイル設定・シンボル管理など、テンプレートに関連するトピックも多数掲載していますので、あわせてご覧ください。