店舗内装の図面を順序なく描き始めると、設計変更のたびに複数の図面を修正する羽目になります。筆者が担当した30坪の飲食店物件で、実施設計が8割終わった段階でゾーニング変更が入り、展開図12面を全面修正した経験があります。原因はフェーズ1のゾーニング検討が不十分なまま図面に落とし込んだことです。正しい作図フローを守れば、こうした手戻りの7割は防げます。
この記事では、Vectorworksを使った店舗内装図面の作図フローを、企画段階から施工図完成まで、チェックポイントつきで解説します。
店舗内装で必要な図面の種類と役割
店舗内装工事では5種類の図面を段階的に作成します。それぞれの役割を理解することが、効率的な作図フローの前提です。
| 図面種類 | 内容 | 主な用途 | 一般的な縮尺 |
|---|---|---|---|
| 平面図 | 上から見た水平断面図 | レイアウト・動線確認 | 1/50〜1/100 |
| 展開図 | 各壁面を正面から見た図 | 仕上げ・高さ関係の確認 | 1/30〜1/50 |
| 天井伏図 | 天井面を下から見上げた図 | 照明・空調・天井材の配置 | 1/50 |
| 詳細図 | 納まり・接合部の拡大図 | 施工精度・特殊部位の指示 | 1/5〜1/20 |
| 仕上表 | 各部位の仕上材一覧 | 材料発注・現場指示 | − |
作図フロー:3つのフェーズ
店舗内装の作図は「企画・基本設計」「実施設計」「施工図」の3フェーズで進みます。フェーズを飛ばすと後工程で手戻りが発生します。筆者の経験では、フェーズ1のゾーニング検討を省略した場合、フェーズ2での修正量が平均2〜3倍に増えます。
フェーズ1:企画・基本設計(所要期間の目安:1〜2週間)
ヒアリングとコンセプト立案から始めます。業態・客単価・回転率から必要席数を算出し、客席・厨房・バックヤードの面積配分を決める。この段階で1/100スケールの基本平面図(壁・柱・開口部のみ)を描き、概算コストを確認します。物販店なら坪30〜50万円、飲食店なら坪50〜80万円が目安です。
概算が予算を超える場合はここで計画を修正します。フェーズ2に入ってからの変更は、作業工数が3〜5倍になります。
フェーズ2:実施設計(所要期間の目安:2〜4週間)
1/50スケールで平面図・展開図・天井伏図を詳細化します。仕上材の選定と仕上表作成(品番・メーカー・単価を記載)、電気・空調との設備調整が主な作業です。このフェーズの最終成果物は「見積用図面セット」で、平面図・展開図・天井伏図・仕上表の4点セットが揃って完成とします。
フェーズ3:施工図(所要期間の目安:1〜2週間)
詳細納まり図(1/5〜1/20)の作成と、既存建物の場合は実測値の反映が主な作業です。カウンター天板の小口処理、巾木と床材の取り合いなど、施工者が判断に迷う部分を図面で指示します。版番号を明記し、旧版は「_old」フォルダに移動する運用を徹底してください。施工中の「どっちの版が最新ですか?」の問い合わせは、版管理が不徹底な場合に集中しています。
Vectorworksのレイヤ・クラス設計
プロジェクト開始前の30分でレイヤとクラスを設計しておくことが、Vectorworksで効率的に作図するための前提条件です。途中で構成を変えると全図面に影響が出ます。最初の設定が後の数十時間を左右すると言っても過言ではありません。
推奨レイヤ構成
| レイヤ名 | 用途 | 縮尺 |
|---|---|---|
| A-PLAN | 平面図(壁・柱・間仕切り) | 1/50 |
| A-CEIL | 天井伏図 | 1/50 |
| A-ELEV | 展開図 | 1/50 |
| A-DETAIL | 詳細図 | 1/10 |
| A-DIM | 寸法線・文字 | − |
| A-REF | 参照・下書き(出力対象外) | − |
クラス設計では3つの原則を守ってください。仕上・構造・設備を分離してON/OFFで表示切替できるようにする。非出力クラスには「_HIDDEN」「_MEMO」等のプレフィックスを付けて出力時に一括非表示にする。クラスの属性を「使用する」設定にして色・線種をクラスで一元管理する。この3点を守ると、後からの一括変更が格段に楽になります。
各図面のチェックポイント
図面間の不整合は、現場で「どっちが正しい?」という問い合わせの原因になります。以下のチェックポイントを各図面完成時に確認してください。
| 図面 | チェック項目 | 見落としやすいポイント |
|---|---|---|
| 平面図 | 動線(客・スタッフ・搬入)の確保 | 車いすの回転スペース(直径1,500mm) |
| 平面図 | 消防法関連(避難経路・防火区画) | 2方向避難の確保 |
| 展開図 | FL-CL高さの整合 | 梁下・ダクト下のクリアランス |
| 展開図 | 仕上材の切替位置 | 入隅・出隅での見切り材の納まり |
| 天井伏図 | 照明・空調の位置 | 電気図との器具数量の整合 |
| 天井伏図 | 点検口の位置 | 設備機器直上にアクセス可能か |
まとめ
作図フローの標準化は、一度やれば次のプロジェクトから確実に効いてきます。フェーズ1のゾーニング検討を丁寧に行い、Vectorworksのテンプレートファイルを整備すれば、次のプロジェクトの初期設定時間がゼロに近づきます。実際に筆者は同種の飲食店3件目から、図面セット完成までの工数が初回比で4割短縮できました。
レイヤ・クラス設計をさらに深く知りたい方は、「Vectorworksのクラス・レイヤ設計【ベストプラクティス】」をご覧ください。内装設計に特化した具体的な設定例を紹介しています。